裁量労働制には企業側にも労働者側にもメリットにある制度ですがが、問題点もあります。では、企業が裁量労働制を採用する上で、どんな点に注意すべきなのでしょうか?
本記事では、企業が裁量労働制を採用する3つのメリットと3つの問題点を解説します。採用する前に、自社で無理なく運用できそうかよく検討しておきましょう。
裁量労働制とは何か?
裁量労働制は、労働時間を労働者の裁量に委ねる制度です。通常、労働者は企業が決めた労働時間の中で仕事をしますが、裁量労働制では労働者が時間を決め、企業は実際に働いた時間に関係なく賃金を支払います。
たとえば、裁量労働(みなし労働)を8時間と決めていても、実際には6時間しか働いていなかったとしましょう。その場合も8時間働いたとみなすので、賃金は8時間分発生します。
では、みなし労働時間が8時間で、実際には10時間働いた場合はどうなるのでしょうか? この場合も8時間働いたとみなすため、発生するのは8時間分の賃金で2時間分の残業代は発生しません。
人によって能力や作業のスピードが異なるので、労働者にとっては早く仕事が終わればそのぶん時間が浮きますし、反対に作業が遅いと無給の残業が増えてしまいます。
裁量労働制を採用するメリット
生産性の向上が期待できる
裁量労働制では労働者が仕事時間のコントロールをできるので、生産性の向上が期待できます。労働者からすれば、長く働いても残業代が発生しないため、みなし労働時間内に終わらせたいという気持ちが強くなりますし、仕事を早く終わらせれば定時を待たずとも帰れるので、モチベーションが高くなるでしょう。
仕事が早い人からすれば、仕事が終わっているのに定時まで待つのは無駄に感じるでしょうし、もっと早く帰れるようにとさらに仕事のスピードが上がるかもしれません。仕事が早くない人も早く終わらせようという気持ちになるので、裁量労働制を採用することで、労働者の仕事の進め方に対する意識が変わるでしょう。
残業代の節約につながる
残業代ほしさに残業をする人もいるので、そうした不必要な残業代をカットする効果もあります。裁量労働制では、みなし労働時間を越えて残業が発生しても残業代を支払う必要がないため、企業にとって人件費が削減できるのは大きなメリットです。
こう書いてしまうと企業にメリットが偏っているように感じますが、早く仕事が終わっても賃金を削減できないため、残業が少ない会社にとっては恩恵が少なくなるでしょう。それでも、企業からすれば早く仕事を終わらせてくれた方が助かるので、いずれにしてもメリットはあります。
「早い帰宅が可能」と求人でアピールできる
裁量労働制を採用している企業では、「仕事の進め方次第で早い帰宅も可能」と求人でアピールすることができます。自分の裁量で仕事時間をコントロールし、早く終わらせて帰宅したいと考えている人には魅力のあるメリットに感じるでしょう。
これは誇張しているわけではないですし、実際に自分次第で早く仕事を終わらせれば早く帰宅できるので、制度に基づいたアピールです。ただし、どう頑張っても残業しなければ終わらない量の仕事を割り振るなど、求人内容と大きく相違があってはいけません。
裁量労働制の問題点
労働管理がしにくい
裁量労働制では、労働者の裁量で労働時間を決められる点がメリットである反面、労働管理が難しいという問題点があります。会議をしようと思っても、すでに仕事を終えて帰宅してしまっていたり、時間の調整が難しくなったりするのが裁量労働制のデメリットです。
仕事が終わっていないのに帰宅したり、他の従業員に仕事を押し付けたりする人が出てくる可能性もあるので、労働管理の整備は裁量労働制の課題と言えます。
顧客対応の課題
顧客から問い合わせがあった時に担当者がすでに帰宅していると、対応が翌日以降になってしまうため、そうなると顧客に迷惑をかけてしまいます。引き継ぎの仕組みがうまくできていればいいのですが、特定の担当者しか事情がわからないのに、その担当者が早く帰宅してしまうと対応が難しくなるでしょう。
裁量労働制は各従業員の労働時間が不規則であるため、顧客からの問い合わせが多い企業には向いていません。カスタマーサポートなど問い合わせを受ける部署以外で裁量労働制を採用する方法もありますが、部署間で待遇や労働時間が大きく違うと不満が出てくる可能性があるので、その点もよく考えて採用するかを決めましょう。
残業してもらいにくい
繁忙期など、仕事が多い時期はどうしても残業が多くなってしまいます。しかし、裁量労働制では残業代が発生しないため、企業からすれば残業代をしてもらいにくいです。
繁忙期は仕事を多く割り振ればいいわけですが、それでは従業員から不満が出てくるでしょう。裁量労働制を求人でアピールしていても、実際は時間内に終わらない量の仕事を割り振る企業もあるようですが、それをやってしまうとブラック企業になってしまうので、仕事の分配は裁量労働制の課題です。
おわりに
裁量労働制は生産性の向上や残業代の削減などのメリットがある反面、労働時間の管理や仕事の分配の難しさが課題です。業種や従業員の人数によっても裁量労働制の向き不向きがあるので、自社の状況を鑑みた上で採用するかよく考えてみてください。